神去村なあなあ日常 映画化記念 読書レビュー
一章 ヨキという名の男
あらすじを全く知らずにタイトルと各章名を見れば、閉鎖的な山奥の村の、神事的な小説をイメージするかもしれない。事実私もそうだった。蓋を、いや、ページをめくると三重県中西部にある山村での林業体験物語だ。ヨキという意味深な名前も、少し妙だが、主人公に林業を指導する日本人の名前だ。ちなみに、神去村は三重県の旧美杉村(現在は津市三杉町)をモデルにしているとか。(われわれの天竜も近いとか。)
目的もなく過ごし、高校卒業後の進路も全く決めずにいた平野勇気が、教師と母親に強引に林業後継者育成事業へと放り込まれる事から物語は始まる。
文体が一人称で展開され、読んでいると今どきの所謂ライトノベルを彷彿とさせ、18歳の少年にしてはいやに小難しい言葉や、斜めに構えた表現が気になっていた。また、いくら未成年とは言え、本人の同意もなく申し込むのは現代日本では通用しないのではないだろうか。それに、人知れず書き溜めていたノートを盾に脅されるのは、同じよう経験ある身には正直快くない。
しかし、都会で生まれ育ち、林業とは無縁だった青年の成長と林業や山村に対する理解の工程が細かな描写が、同じく林業とは無縁である読者を引き込ませている。高い木に昇ってチェーンソーで枝を払うシーンなどもありありと脳裏浮かぶ。無気力な若者だったが、若い分だけ体力もあり、吸収する能力も高い。国土のほとんどを山林で覆われているにも関わらず、林業従事者は減って行く一方の日本で、勇気を通して、日本の林業がどのように進んで行くのかを垣間見えるのだろうか。
つづく